さくら


桜、東京は雨が降る水曜日までが見頃のようですね。

桜を見ると、身が引き締まるというか凛とした気持ちになります。

わずかな期間にしか咲かない桜の花びら、しっかり目に焼き付けようとおもいます。

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天声人語 2012年4月7日(土)付

つり革につかまる通勤電車の窓を、淡いピンク色が流れていく。きのうあたりから東京は桜前線のただ中にある。名所の千鳥ケ淵に寄ると、大勢の人波が続いていた。満開の手前の花は朝日を浴びて、息が詰まるほどに光っている▼戦没者墓苑があるせいか、ここの桜は戦争への思いにつながっていく。終戦の年のきょう、戦艦大和が東シナ海に沈んだ。生還を期さない沖縄への出撃は「水上特攻」と呼ばれた。出撃前日、瀬戸内海で訓練中の艦上で「桜、桜」と叫ぶ声が上がったそうだ▼奇跡的に生き延びた吉田満の『戦艦大和ノ最期』によれば、乗員は先を争って双眼鏡に取り付いた。そして、「コマヤカナル花弁ノ、ヒト片(ひら)ヒト片ヲ眼底ニ灼(や)キツケントス……桜、内地ノ桜ヨ、サヤウナラ」。67年前の、この国の現実である▼そして歳月をへて、いま「第二の敗戦」とも言われる国難にあえぐ。経済はよろけ、政治はとろけ、震災に原発事故が重なる。傷む列島を励まし、癒やすように、桜が染め上げていく▼だが、被災地では多くの桜が津波に倒れた。先の岐阜版で、宮城県石巻市に桜の若木を送っている人たちを知った。昨春小欄に書いた「桜」の拙文を読んで思い立たれた、と聞いてうれしくなった▼「亡くなった人々が桜になって帰ってきてほころびる日が早く来てほしい」と活動の中心の方(かた)が言う。限りない思いが、今年も各地で桜に託されることだろう。一輪の中に、移ろうものと移ろわぬものを咲かせて、花が光る。

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